先日、娘が生まれました。その日は、私が住む愛知県に緊急事態宣言が発令されており、病院も厳戒モードでした。その為、通常の出産立ち会いができず、リモートで立ち会うことになりました。

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出産前日、妻の陣痛が始まりました。はじめは15分に一度の小さな痛みでしたが、次第に10分に一度の大きな痛みに変わってきたため、妻が病院へ行くことになりました。このとき私は職場にいたため、遅れて病院へ向かいました。

私が急いで病院へ向かっている最中、先に病院に到着した妻から連絡ありました。
「もしもし、申し訳ないんだけど。。。立ち会いができなくなりました。」
「え?どういうこと?」
「病院の方針が突然変わってね、緊急事態宣言中は立ち会い禁止になってしまいました。」
「うそ…夫であってもだめなの?」
「だめだそうです」
「ほんとう…俺はどうしてればいいの?」
「Facetimeで中継してもらえるから、リモートで応援して…」
「Facetime?」
妻からの連絡を受け取ったとき非常に残念に思い、呆然と立ち尽くしました。

妻は妊娠が発覚したときから、私の立ち会いを強く希望していました。初めての出産であり、一人で産むことが怖かったからです。私が側にいて励ましたり、テニスボールで痛みを和らげたりしてほしいとずっと言っていました。ですが、妊娠が発覚したときは既にコロナ禍です。多くの病院は立ち会いが禁止になっていました。そんな中、苦労して立ち会いができる病院を見つけたのです。

しかしその病院も突然方針が変わり、緊急事態宣言中の立ち会いは禁止となったのです。夫すら病院の中に入ることが許されません。

私は病院に入れないため仕方なくわが家に帰り、中継の準備をしました。机の上に小さい三脚を立ててiphoneを取り付けます。病院からはFacetimeで中継すると指定されていました。普段使わないアプリなので使い方をGoogleで調べておきます。カメラを起動して自分の映り具合を確認します。突然の中継なので家の中も散らかっていたので、映したくない物を片付けます。また立ち会い中はご飯が食べれないと考えて、急いでご飯を済ませます。

いざ準備ができたため、病院へ電話して準備が整ったことを伝えます。一旦電話を切り待っていると、病院からFacetimeで連絡が来ました。慣れないFacetimeなので緊張します。妻がどのように映るのか気になります。一旦深呼吸をしてから応答ボタンを押します。すると分娩室で横になり苦しそうにしている妻が映りました。

病院のカメラはベッドの右側に配置されており、妻の上半身を映しています。下半身は映らないようなっています。妻のお尻のあたりには看護師さんがおり、妻の背中をギューッと押しています。分娩室には妻の「ふぅー」という息の音と「ドッドッドッ」と早い間隔で鳴る赤ちゃんの心音が響いていました。

私から話しかけてみます。
「もしもし、●●の夫です。聞こえますか?」
「はい、こちら●●病院です。聞こえています。こちらの映像は見えていますか?」
「はい、見えています」
問題なく会話ができました。この間に妻はチラッとカメラを見ましたが、話しかけてきませんでした。ちょうど陣痛の最中でしゃべるどころではなかったようです。「大丈夫?」と声をかけても首を縦にふるだけでした。

しばらくすると、陣痛の周期から抜けたようで話せるようになりました。私が話しかけます。
「お疲れ様。陣痛痛そうだね」
「本当に痛いよー。薬で痛みを和らげているけれど、すっごく痛い。」
「そうなんだ。大変だね。。耐えられそう?」
「うん、なんとか」
「そうか。。頑張ってね。俺はここいるからね。応援しているよ!」
妻とも会話はスムーズにできました。

そうこう話しているうちに、また陣痛の周期が来ました。妻が顔にシワを寄せ苦しそうにしています。妻は看護師に「押してください」と伝えます。すると看護師は妻のお尻あたりをギューっと押します。押す場所が悪かったのか「もう少し上です」と妻がいい、「ここですか?」と看護師が確認します。今度は場所が良かったようで、妻が首を縦に振ります。私は「頑張れー!」とスマホ越しに声をかけます。そしてしばらくすると、陣痛の周期から抜け「はぁ~」と妻が息を吐きます。このような流れが何十回と続きます。

途中、何度か医師が子宮口の開き具合を確認しに分娩室にやってきます。その時は一旦Facetimeは終了されます。その間、妻の状態が心配になりますが何もできません。その為、エネルギー補給したりトイレに行ったりして待ちます。医師の確認が終わると病院からFacetimeで連絡がきます。医師からは子宮口が何cm開いたとか、何時頃生まれるかなど診断内容を教えてもらいます。

そして何回目かの医師が診察時に、「そろそろ生まれるね!」と医師がいいました。ついに来たかと私はドキドキしてきます。私は妻に「もうちょっとだね、頑張って!」と言います。しかし妻はイキムことに集中しており、もう私の言葉に少しも反応しません。医師と看護師は「上手上手!すごい来てるよー!」と声をかけます。同時に私にも状況が伝わるように「もう髪の毛がみえるよ!」「もう出るよ!」と説明してくれます。私は妻に「頑張って!もう最後だ!」と言います。

そして妻が何度かイキんだ時についにその瞬間が来ます。看護師が「頭がでたよ!」と言いました。同時に赤ちゃんを引き抜きます。その瞬間、赤ちゃんがとっても大きな声で泣き始めました。それは本当に大きな声です。看護師が赤ちゃんを持ち上げると、赤ちゃんは上を向き大きな口で泣きながら、両手両足を動かしています。妻は疲労困憊ながらも赤ちゃん顔を見ると、笑顔になりました。その姿を見て私はホッとします。妻に声かけます。「本当にお疲れさまでした。大変だったよね。でも、生んでくれて本当にありがとうね。」妻が首を縦に振ります。

看護師はへその緒を切ったり、赤ちゃんの体を洗ったりします。その後、服を着せ、頭にニットの帽子をかぶせ、妻の左隣においてくれました。私から赤ちゃんの顔と妻の顔どちらも見える状態です。

私から妻に言います。
「元気な赤ちゃんだね!」
「そうだね」と笑顔でこちらに答えます。
「長い間お疲れさまでした。本当に生んでくれてありがとうね」
「うん。こちらこそ応援ありがとうね。」

しばらく妻と話した後、看護師が「これからお母さんの体の検査をするので、中継は終了しますね」と言い、Facetimeを終了することになりました。
画面越しに妻に手を振って終了します。

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(あとがき)
今回が初めての立ち会いでした。私は通常の立ち会いを経験したことがありません。その為、リモート立ち会いのどこが良かったや、どこが悪かったと言えません。しかし自信を持って言えるのは、リモートであっても立ち会えて本当に良かったということです。リモートの技術が今の世に発展していて感謝です。もし発展していなければコロナ感染拡大のリスクを負いながら分娩室で立ち会うか、全く立ち会えないかのどちらかです。わが子が生まれた瞬間のあの声、あの動き、あの顔を一生忘れることがないと思います。

妻にもリモート立ち会いの感想を聞きましたが、何も不平不満はないようです。手段は何であれ、妻に寄り添って励まし、生まれた瞬間の喜びを分かち合ってくれたので良かったと言っています。